耳朶に牙を立てるその訳は
『耳朶に牙を立てるその訳は』
「――っ」
互いに高められた熱を発した後の、ひどい脱力感に浸り、荒い息を整えている最中だった。だというのにピオニーはもう既に体力が回復したらしく、背を向けるジェイドに半ば覆い被さり、耳朶に舌を這わせる。
「…なに、をっ」
「何だ、随分初心な反応をする」
顔の向きを変えて行為を拒んだジェイドに、何を今更と目を細め笑む。ジェイドの頬にかかった髪を掻き揚げるピオニーをそのままで、ジェイドは眉を寄せて淡々と言った。
「驚いただけです」
「そうか。いや、お前がガイラルディアを抱いたのかと思ったのを、思いだしてな」
「何ですか、それは…」
誰が、誰を抱いた?
どんな戯言だとジェイドは疲労のために重い瞼を押し上げ、ピオニーを見上げた。
「耳を、噛んだんだろう?」
「………そう言えば、そんな事もあったかもしれませんが」
だから何だと言うのか。しかも、誰がそんな事をピオニーに告げたのか。口の軽い人物に、心当たりは一人しかいないが。
「お仕置きが、必要ですね…」
口の中だけで呟いて、溜息を吐く。
けれどだが、何故耳を噛む事が抱いたという事になるのか。話が繋がらない。
「だからな」
再び、ピオニーは顔を近づけジェイドの耳を嘗め嬲り、軽く牙を立てた。
「…っ」
ジェイドが咽で殺した小さな悲鳴を愛しく思って、ピオニーは軽く唇に口付けた。
「破瓜の痛みを紛らわせる為に、男は相手の耳を噛んで痛みを散らしてやるんだよ」
「そんなの、は…初耳です」
話しながらもピオニーの手の平は滑らかな肌を撫ぜる。敏感な部位、弱い箇所には時に爪を立てて優しく苛んでも、ジェイドは特にその行為を止めさせようとしない。それは、彼の肯定を表す。
「思いだして見ろよジェイド」
「何を、です」
薄っすら、ジェイドはその紅い瞳を見せる。酔ったような、誘うような赤だ。
誘われているのは、その紅い視線を然りと受けるピオニーだ。
「だから、俺はお前の耳を噛んだだろう?」